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水戸地方裁判所 昭和32年(わ)240号 判決 1958年5月26日

被告人 海老沢博

主文

被告人を懲役一年に処する。

本裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

押収の金棒一本(昭和三十二年押第八一号の四)を没収する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

被告人は昭和三十二年三月二十九日午前八時頃茨城県西茨城郡稲田町(現在笠間町)大字福原二、三三三番地磯研作方石材工場内において松村登(当三十一年)と些細の事から口論し、同人が附近にあつた石工用セットを手にして被告人に向つて来たので同所の石工道具修理用の炉で焼いていた長さ六尺五寸、六角形の金棒(昭和三十二年押第八一号の四)を持つて右松村に対抗し、同人が驚き逃げだすや、これを追い、その背後から右金棒を同人の肛門に突き刺し、よつて同人に対し約六ヶ月の安静加療を要する直腸摂護腺、尿道開口部、膀胱及び腹部皮下に至る火傷による刺創を負わせたものである。

(証拠略)

弁護人は被告人の行為は過剰防衛であると主張するが、本件は判示認定のとおり判示松村登が石工用セットを手にして被告人に向つてきたので被告人は焼金棒を持つて松村に立向うにいたつたため同人が驚き逃げだしたところ被告人がこれを追いかけ、その背後から右金棒で同人の肛門を突き刺したもので松村が逃げだしたときにおいて被告人に対する不正の侵害は既に経過したものとみるべきでありこの点正当防衛の急迫性の要件を欠くのみならず、右松村を追い判示の如く加害した被告人の行為をもつて自己の権利を防衛するためやむを得ずなした防衛の程度を超えたものであるとは到底認めることができないから弁護人の右主張は採用するに由ない。

(法令の適用)(略)

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 浅野豊秀)

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